障がい児のための教材・おもちゃ
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(日常生活の指導・自立活動)
        手作り自作教材ー箸ー上手に持ってきれいに食べたいー理論編
             
      

 グルメ番組を見ていると、俳優さん、芸人さんが、「おいしい!」と言いながら、料理を楽しむ番組がテレビ画面から流れてきます。また俳優界、芸能界の方々に対して「これでいいのか 箸の持ち方」みたいな番組もけっこうあります。箸の持ち方がきれいでないと料理がおいしそうに見えないのは私だけでしょうか。
 私が職場で「箸の持ち方」を意識するようになったのは、修学旅行の食事の場面からでした。「こぼさずに食べなさい」「ほら、また、こぼした」「なんで こぼすの」こんな言葉が聞こえてきました。肢体不自由の障害があり、その障害の程度が重い子どもたちであれば、箸どころかスプーンも持てません。支援してもらって食べさせてもらうことになります。でも、自分で食べることができる子どもたちは、こぼすと叱られるのでした。なぜこぼしてしまうのか・・・。箸が使えないのです。はさめない。つまめない。

 豊田養護学校では、入学時、鼻腔経管栄養でミルクしか摂れなかった児童で小学部卒業までに固形物をスプーンで食べられるようになった児童がいました。記憶が定かでないのではっきりとは思い出せないのですが、4年間は同じ教室で過ごしたような(ひょっとしたら5年間だったかも)食事上のねらいは、「スプーンで食べる」までしか思いつきませんでした。

  三好養護学校では、ミルクも飲まない児童に出会いました。哺乳瓶を使うのですが嫌がって払いのけます。コップを使えば同じように払いのけるので机も床も服もびしょびしょになってしまいます。手が使えるものですから鼻腔経管は抜いてしまったのか、経管を使ったという話は聞いたことがありません。必要な栄養をどうやって得ていたのか不思議です。この児童の担任を5年間勤めましたが、給食の時間には同じ空間にいましたので、小学部6年間はずっと見ていたことになります。増粘剤を使っての再調理食の前に、水分が喉を通過することを楽しめるようにならないといけませんでした。(病院にはかかっておりOTさんの摂食指導を受けていましたので口からの飲食が禁止されていたわけではありません。)5年生になったころには何とか食べられるようになりスプーンが使えるようになりました。6年生で箸に挑戦することにしました。
 彼は本当によく箸先をそろえていました。2本をまっすぐに立ててトントンとやって箸先をそろえてまた持ち直すのです。どうして何度も箸先がずれるのか当時の私にはわかりませんでした。箸先がずれていると上手につまめないということがしっかり認識できるようになったということでしょう。何より持ち方がきれいで、正しいとされる持ち方ができるようになりました。運動会で保護者の方と一緒に箸でお弁当を食べている様子は、入学当時からすると考えられない光景でした。

 握り箸から正しいとされる箸の持ち方に至るまでには、発達段階があります。
 
 1)2本を握って持つ。(1本のように持つ)

    2)2本を離して持つ。(間に隙間を空けて持つ)

    3)2本を別々に動かすことができる(1本は動かし、他方は固定)

    4)動かしながら箸先を合わせることができる。

   箸を上手に使うためには、箸先が合うようにならないといけません。親指、人差し指、中指、薬指を正しい位置に置いたとしても、動箸を動かしてつまもうとすると箸がクロスしてしまって箸先は合いません。私の場合、中学生の時に父親に言われて直したのですが、手前に下りてしまうばかりで全くつまめませんでした。

対処方法を理論的に上げれば次のようになるはずです。
固定されるべき静箸をほんの少し微妙に手前に置く。
動箸を押さえる親指の位置を微妙に下げ、箸先が浮き上がるのを防ぐ。
動箸を支える中指の力を微妙に下げ、箸先の浮き上がりを防ぐ。
 
 対処方法はいろいろあるのでしょうが実際にやってみると理論通りには指が動いてくれません。箸先が合うようになるまでには練習(学習)が必要です。この学習の過程で、箸先を合わせるだけではなく、4本の指を中心に各指関節を連合させ、協調させて動かすための学習がされているようです。実際につまめるようになった人は、動箸を静箸よりも手前に下せるようになりますし、奥に下せるようにもなります。静箸を中心にして動箸が円弧を描くことができるようになります。両箸を持ったまま、動箸で3拍子、4拍子の動きを表現することもできるようになります。つまんだりはさんだりの箸先を合わせる動きには、円を描いたり4拍子で動かすような動かし方は必要なさそうです。このような動かし方は、その後の割く、切る、分けるなどの使い方の時に必要になります。食べ物の繊維に沿って縦、横、斜めに割いたり切ったりする時には、箸先は自由に動かせなくてはなりません。この動きが
映像でも紹介したように3次元の動きです。食材の形、大きさ、硬さなどにより、また、箸の使い方に合わせて力の強さや方向を変えるために、指の関節は伸びたり縮んだり回旋したりするということです。このための学習をしていなければならないということになります。
 
 いずれにしても、先ずは箸先が合うようにならないと先に進めません。
1)握り箸にならないよう、2本の間に常に適度な間隔を作る。
2)同一平面ではなく、3次元での動きを学習できる工夫をする。

この2点がこの器具を作る契機となっています。

  2本を連結したタイプの矯正箸では、箸先を合わせる努力をしなくても箸先が合ってしまいます。また、同一平面上でしか動かないため、関節の伸縮や箸の回旋運動を阻害していることも考えられます。指を連合的協調的に動かす学習がされていないと、矯正箸を外すと何もつまめなくなるということも考えられます。
 指の位置を指定した箸があります。この箸は2本の間隔を保持するのに難しさがあり、だんだん距離が狭くなり指定された位置
から指がずれてしまう傾向があります。

 どんな器具を使っても、すぐにつまめるようになるわけではありません。箸先を合わせる努力をしないといけません。食事の場面ではなく遊びの感覚を大切にして、滑りにくい形、つまみ易い大きさの物からだんだんつまみにくい小粒なものをつまむ練習をします。

 ※ 動箸1本を持って、ビー玉をはじいて遊んだこともありました。

   ※ 白い丸い板は、ホームセンターの建築関係用品売り場、トタン板を止める釘に付けるためのものです。指の長さに合わせる必
   要があるため、発泡ゴムの板で作ったこともありました。2本の間隔を保持するために使います。
 ※
 指を置く位置を教える必要はあります。「指の位置を指定する箸」と一緒に使えばより効果が上がると思われます。

   私は体格が小さいほうなので、手が大きくありません。丸い板や三角の板をつけた箸を持つ子供の手の上からかぶせるようにして一緒に箸を持ってつまみ、口まで食べ物を運ぶようにしていました。 

 現在の学校は、保健衛生の観点から何かとこまごまと厄介なことが多いと感じております。箸やスプーン、食器など家庭からの持ち込みを制限するばかりでなく、禁止するところがあってもおかしくない情勢です。さらに、本来の目的が食事とは全く関係のないものを食事に使うとなると、首を傾げられても仕方ないです。コロナのことを考えると、密接、密着は禁止されても仕方ないです。「箸を一緒に持つ」など、とんでもないことなのでしょう。


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